2024.10.10
海とアカデミアをつなぐ 「フィッシャーマン・ジャパン研究所」設立
一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン(宮城県石巻市、代表:阿部勝太|以下、FJ)は、持続可能な水産業の実現を目指し、フィッシャーマン(漁師をはじめとした水産業に関わる人全て)が中心となる研究機関「フィッシャーマン・ジャパン研究所(以下、FJ研究所)」を設立しました。FJ研究所は、海の現場と学術研究を結びつけることで、海洋環境変化や気候変動などの大きな問題に対して実効的な解決策を導きだし、社会実装していきます。
FJ研究所webサイト:https://science.fishermanjapan.com/
【FJ研究所とは】
FJ研究所では、「フィッシャーマンによる、フィッシャーマンのための、フィッシャーマンの科学」を掲げ、これまで希薄だった水産業の現場と研究者の連携を強化します。この研究所では、現場の漁師や水産事業者たちが感じている問題や疑問に対し、専門家と協力して科学的根拠に基づく解決策を導き出します。
<FJ研究所の特徴>
①持続可能な水産業の実現を目指した研究所であるため、水産業の現場において必要な研究を行う。
②研究対象は、海洋環境の変化から「漁師の勘」と呼ばれる長年の経験に至るまで幅広くカバー。フィールドは海だけでなく、海とつながる山や里も含まれる。
③研究の主体は、研究者や漁師だけではなく、消費者を含む、水産業や海に関わるあらゆる人(=フィッシャーマン)である。
【立ち上げの背景】
FJは、2014年の立ち上げから、水産業の担い手育成と6次産業化、販路開拓を中心に活動を続けてきましたが、近年の急激な環境変化が水産業に深刻な影響を与えています。
そこで、2023年には、フィッシャーマンジャパン・ブルーファンドを立ち上げ、海況環境保全活動を金融面からサポート。また、様々な企業とパートナーシップを結ぶことで、海洋プラスチック問題や産業廃棄物問題に取り組むなど、海洋環境に対するアクションを起こし続けています。
しかし、深刻化する環境変化に対しては、金融面や企業とのパートナーシップだけでなく、地域ごとの環境条件に適した解決策の発見が急務となっています。そこで、海とアカデミアをつなぐ「フィッシャーマン・ジャパン研究所」を設立し、漁師や水産業従事者の現場から得られた知識と経験を、科学的なデータと結びつけることで、複雑で大きな課題に対して効果的な解決策を導き出すことを目指します。
【進行中のプロジェクト】
①宮城県石巻市(地域循環共生圏づくり支援事業)
FJ研究所は、環境省が推進する「地域循環共生圏づくり支援事業」の一環として、宮城県石巻市蛤浜でプロジェクトを立ち上げました。2023年、記録的な海水温上昇によって漁業が大打撃を受けた現場で、地元漁師や東北大学と協力し、山からの水流管理や海のモニタリングを通じた環境改善の試みを進めています。海と森の関係をデータで可視化し、持続可能な漁業環境の創出を目指しています。
②広島県(ICTシステム導入による漁業効率化)
広島県では、ICTシステムを活用した漁業の効率化プロジェクトを推進しています。FJ研究所は、県や漁協と連携し、漁師たちがスマホを活用して漁獲量や航跡を記録・共有できるシステムを導入しました。このシステムは、作業効率の向上や新人教育にも活用されており、漁業の知識を蓄積・継承する新しいツールとなっています。また、クラゲの大量発生への対策として、データ収集システムも運用し、クラゲの発生予測や駆除の効率化にも寄与しています。これにより、地域の漁師の作業負担軽減と収益向上が期待されています。
③三重県南伊勢町(藻場再生と新たな養殖技術の導入)
三重県南伊勢町では、FJ研究所が地元の種苗センターと連携し、藻場再生と新たな養殖技術の導入に取り組んでいます。磯焼けによる藻場の減少に対応するため、ヒジキの種まきを進める一方、センターの豊富な海洋データを活用し、地域の漁業者と協力して沿岸資源の保全を進めています。また、環境変化に対応した新たな養殖方法を模索し、地域の水産業の持続可能な発展に向けた試みも進行中です。これにより、南伊勢町は漁業の新たな収入源の創出と生物多様性の保全を目指しています。
【担当者からのコメント】
・フィッシャーマン・ジャパン研究所 Co-founder 川鍋一樹
フィッシャーマンの科学とは、 国や研究者に任せきりにするのではなく、漁師や地域のプレイヤーが自らが社会生活の中で疑問に思ったことを調べた上で、一部専門家に入ってもらい、それを裏付け、明らかにして、具体的な問題解決に繋げる活動です。ゆくゆくは消費者たちも、問題にきちんと目を向けて、データや科学に基づいたアカデミックな視点から、自分たちの持続性を考えてアクションできるような未来を実現していきたいと考えています。